Shanling M3X
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Shanling M3X

 このDAPには舌を巻いた。解像度の高さ、各帯域の力感とその裏腹の繊細さ、SNの良さ、操作性といった今のDAPの基礎能力に加えて、かつては10万円以上のDAPにしか見られなかったある特質を聴かせてくれたからだ。それは音の空間性である。

 私は縁あって3年前、当時5~10万円だった各ブランドのDAPを比較試聴したことがある。ミドルクラスに分類される各ブランドの自信作だった。不満はなかった。どのDAPも上記の基礎能力を備え、明らかにスマホやiPodとは一線を画した音を聴かせてくれたからだ。しかし一方で、私は10万円を超えるハイクラスのDAPも聴いていて、10万円を境に別の世界が現れることも感じた。それが「音の空間性」になるわけだが、驚いたことにM3Xは3万円台ながらそれを表現してきた。

 Shanling M3Xで音楽を再生し目を閉じると、演奏された空間に飛べる。なぜか。このDAPのすぐれた解像力が演奏を生々しく再現するからだ。しかし音楽の実体感・臨場感は音楽の再現だけでは達成されない。音場で閃くさまざまな音の距離感が正確で、音の移動感を表現できてはじめてそこに「空間」が生じる。

 たとえばジャズのピアノトリオ。あなたはある演奏を聴いて、ピアノ、ドラムス、ベースがどこに位置するかを指し示せるだろうか?M3Xでは、およその位置どころか、マイクから楽器が何メートル離れ、楽器同士が何メートル離れているかさえ分かるように聴こえる。これは人間の耳が、音の響きから音源との距離を算出する機能を持っているからだ。距離による残響の差分。オーディオファンかコンサートホールの設計者くらいでないと考慮に入れないようなそんな要素までを再現する性能。しかしそれがなければ耳が音場を立体的に捉え、私たちが再生音によって演奏空間に「飛ぶ」ことはない。だから私はそれをハイエンドの世界と考えていたのだ。技術の進歩は著しく、Shanlingのエンジニアには敬意を抱く。

 スタジオの演奏は、密集の熱気を留めながらミュージシャン同士の交感や目配せの気配まで。クラシックの演奏は、オーボエや大太鼓が空間を渡りきたって耳に届き、ホールの大きさまで脳内に再現する。DAPの「音がいい」のは当たり前。高音がきらめき、中音は艶を帯び、低音は量を保ちながらキレも兼備する。そんな3年前のDAPの水準を超え、聴こえなかった音を表現し、ここにない空間を眼前に創り出す。そこまで行ってはじめて「今のハイレゾプレーヤー」と言えるとしたら、M3Xは最高のDAP入門機と言えるだろう。

 注文も付けておく。まず、多くの人が期待しているであろうAmazon Music HD。上記インプレッションはAmazon Music HDで得たものなので音質には文句がない。ただ、アプリを入れる手順が分かりにくい。アンドロイドOSが中国語表記なのには面食らうし、どこからアプリをインストールするかが分かりにくい。アプリ導入に手間取って「新しいプレーヤー到着」のテンションを下げてほしくない。せめて説明書を付けるべきだろう。

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 もう一点。イヤホンをそれなりに選ぶ。上記インプレッションはqdc Neptuneで得たものだが、私が持っている中低音推しのイヤホンは相性が良くなかった(具体的にはCardas Audio EM5813。JH Audio Roxanne Aionも相性が良いとは言えなかった)。高いスタンダードを持つ本機は高いスタンダードを持つイヤホンと相性が良いようだ。しかしこの点はonzo利用者には問題ないだろう。イヤホンとの相性はレンタルで試せばいいからだ。お手持ちのイヤホンとのマッチングを楽しみにしながら、この優れたDAPをさまざまに味わってみてほしい。

ライター E.Y.

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