STAX SRM-400S製品レビュー
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STAX SRM-400S製品レビュー

STAXから2021年5月に発売されたばかりの半導体式ドライバー・ユニット「SRM-400S」(税込121,000円)をレビューします。組み合わせる機器は「SR-L700 MK2」(2019年発売)です。

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ドライバー・ユニットという聴きなれない名称ですが、ひらたく言うとヘッドホンアンプです。前代機の「SRM-353X」から電源トランスの改良、シャーシの高剛性化を図り、「高解像度サウンドや躍動感に溢れた低域再生を引き継ぎながら、SRM-353Xに比べてバランス感の良さを追求」したとのこと。

私は「SRM-353X」も聴いているのですが、ブランドの言ったとおりの変化を感じます。SNの高さに裏付けられた見通しのよい音場に、解像度の高い音がのびやかに展開していきます。

先に、真空管方式のSRM-500Tを聴いたのですが、それに比べると、SRM-400Sは涼やかに鳴ります。音の分離感により優れ、高音域のクリアさや繊細な音階表現で魅了する一方、真空管方式のSRM-500Tは中音域、とくにボーカルや弦楽器の厚みに魅力を感じます。

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とはいえ、結局のところSTAXの音同士。方向が似ているんですよね。最後は好みで選べばいいレベルのため、比較してもいまひとつ、SRM-400Sのサウンドを伝えることができない。

そこで他ブランドのヘッドホンを並べてみます。価格帯が近く、発音形式も(静電型と平面磁界駆動型で厳密には違うものの)近いアメリカのヘッドホンブランド。Hifimanの「Arya」(145,200円)です。実力、人気ともに、STAXとHIfimanは日米を代表する平面型ヘッドホンブランドと私は考えています。

いまSTAXを検討している方は、Hifimanも視野に入れておられるのではないでしょうか?

試聴していきます。

Aryaと比べると、STAXは音場がやや広く、音同士の隙間も広い印象を受けます。音と音の間の空間が広いように感じる。Aryaは、平面型ヘッドホン特有の

・解像度の高さ
・微細な音の拾い上げ
・音のほぐれのよさ

を土台にしつつ、音の色合いを生き生きと描き出すヘッドホンです。そんなAryaに比べるとSTAXは音の色合いが淡い。さっぱりしている。甲乙つけがたい解像度の高さ、音場の立体感、音の消え際/立ち上がりの繊細さを聴かせる一方、Aryaの方が音の色の種類が多く、それぞれの色のツヤも強い。ではSTAXの音楽は痩せて味気がないのか?というとそうではありません。

(特に高域の)音の伸びやかさ・なめらかさ。そして全帯域における音階表現の精密さはSTAXの方が上に感じます。音の色が淡く身軽なぶん、細かい音階の動きをひょうひょうと描きます。残響もAryaよりわずかに引き締めているため、音楽が全体的に清涼で、見晴らしが良く、音にヌケ感がある。その結果、音同士の関係や、音のハーモニーの形がすっきりと見通せます。

Aryaが、解像度と音の色つやの高度なバランスで楽しませる方向とすると、STAXはより、「音楽の構造」にフォーカスしている印象をうけます。色やツヤ、響きを引き締めることで音楽の形をよりクリアにし、構造に耳がいくようにしてある。味気ない、酔わせないのではなく、酔わせるポイントがAryaと微妙に違うのです。

こうした特徴を踏まえるなら、聴いて楽しい音楽はクラシックになります。カルロス・クライバー指揮のシューベルト交響曲第8番を聴くと、冒頭の不穏な、遠くから渡ってくるような管楽器の表現に鳥肌が立ちます。

音、音の位置、音の階層、音の移動。

それらの明晰な描き分けによって、音楽の各要素が担っている役割がはっきり伝わってきます。作曲家や指揮者、オーケストラが、「それぞれの音をどう配置し、どう組み合わせることで何を表現しようとしているか」にハッとさせられる。構造に込められた意図や効果に何度も息を呑みます。クラシックの他には映画音楽やドラマチックなポップスなど、音の構築性や重層性がものを言う音楽には、STAXの表現が至高の相性を示すでしょう。

ただ、ロックをSTAXで聴くと私はそんなに乗れません。STAXの理知的なところが勝ちすぎてしまうのでしょうか。ロックを聴くときにほしいのは、クールな構造理解より音の勢いや突進力です。手元にあるbeyerdynamicの「T5 3rd Generation」(発売時参考価格120,000円)でロックを聴くと、バスドラのアタック感やベースのぶりぶりした弾力感が心を震わせます。ダイナミックドライバーの密閉型ですから平面駆動・オープン型のSTAXとは真逆です。しかし、これはこれで至極なのですよね。

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何が言いたいか?

ヘッドホンは10万円を超えると「万能ではなくなっていく」ということです。作り手、ブランドの思想や美意識がより鮮明に打ち出され、「全部を上手に鳴らす」という気配りがいい意味で失せていく。だからこそ当たりを見つけた喜びがあります。

遠慮せずに書きますと、STAXは「全部を鳴らそう」という意欲の強いブランドではないように思えます。「うちの音を本当に好きな人だけが買ってくれればいい」という感じで、音楽の好みも、相性のいいジャンル・楽曲も選ぶ。先の比較で言えばHifiman「Arya」の方がよほど幅広く鳴らします。

しかしONZOのいいところは、そうした「選ぶ」機器をこそ試し、検証できるところです。

「このオーディオ機器でこのジャンル・曲を鳴らすと天国にいける」というコンビネーション。STAXがそうした境地に私たちを連れていってくれるブランドであることが今回の試聴で改めてわかりました。ご興味ある方はぜひトライを。この記事が、どなたかのSTAXとの幸せな出会いの一助となることを願っています。

(E.Y)




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